清國光保さん(86歳)
長崎県長崎市在住・PD歴半年 [2016.11現在]
次は、ジャズを習いたいですね
「お父さん、ぜひ100歳を目指してください。」
-恭子さん
「趣味でハーモニカをやっているんです。これ聴いてみますか?」
そう言ってiPadを操り、音楽共有サービスのアプリで知人がアップロードした音楽を、さらっと流してくださいました。(読者の皆さん、わかりますか?)。最新のツールを軽々と使いこなしながら取材に応じてくださったのは御年86歳、PD歴半年の清國光保さんです。
「PDを始めるにあたって、やっていく自信はけっこうありました。そういうことが苦にならない性格だし、何よりどんなものか興味があったんですよね。」
自分の体の変化も含め、新しいもの、ことへの興味が尽きないタイプという清國さんのPDライフを覗いてみましょう。
●PDまでの経緯を教えてください。
清國さん「11年前に前立腺の病気をしてから、病院にはずっと通っていました。その頃からいずれは透析と聞いていて、3年前にそろそろだねという話になり、当時の主治医に長崎大学病院の透析教育入院プログラムを紹介してもらいました。入院中に各種透析の概要などを勉強しながら体を調べてもらって、その後のスケジュール立てを始めました。そこで治療の選択肢が与えられたんです。その時にはPDと決めていましたね。PDを始める前に体の中の悪いものは取り出しておきましょうと、大腸ポリープを取り除く手術をして、準備万端、カテーテル手術に臨みました。」
●PDを選んだ決め手はなんでしょう。
清國さん「私は本を読んだり、教育入院で学んだりして決めてはいたんですが、やはり一つあるのが災害のことです。大きな震災があった後ですから。災害が発生したら治療をするために病院に行くことができなくなります。自分でできるのはこれしかないと思いました。」
●透析が決まった時の心境はどうでしたか?
恭子さん「父は透析になっても普段と全然変わらない感じでしたね。」
清國さん「こんなこと(透析)になってしまったと、くたーと(落ち込んだりして)あんまり考えない方です。」
恭子さん「それが本当に助かっているんですよね。本人が落ち込んだら、周りは気持を持ち上げるところから始めないといけなくなります。父は落ち込むどころか新しいことに対する興味の方が強い感じ。私が『そのお腹のチューブ邪魔にならない?』って聞いたら…」
清國さん「あ、こんなん出てるわ、って感じ(笑)。」
●現在のPDの状況は?
清國さん「始めた当初はAPDを試したのですが、除水量が多すぎたのでCAPDになりました。私はまだ腎臓が生きていますから、PDであまり除水しなくてもいいんです。透析液も750mlから始めて徐々に増やして、今は2,000ml。22時から睡眠時間を利用して8時間やっていますね。」
担当者「残腎機能のあるうちにPDを始められたから、ゆったりいけるんですよ。」
●食事で気を付けていることは?
清國さん「うちのご飯は塩気ないです。」(ここで一同大笑い)
恭子さん「一人だけ違う食事ではなく、家族みんな同じものを食べているんですよ。調味料を少なくして、食べた時にいかに『濃く』感じさせるか工夫しています。炒め物をする時も途中で塩を入れると水もたくさん出てきてどんどん調味料を入れたくなってしまうから、できあがり直前にさらさらっと入れるようにしています。お酢などで味に変化をつけたり。」
清國さん「ご飯にのせて食べるような味の濃いおかずを、ご飯がなくなった頃に出してくるんですよね。たまに出してくる明太子もまるごとではなくちまちま切ってあって(笑)。でもね、PDをする前はご飯の味がしなくて、特にこってりしたものには手が出なかったのですが、今は普通に頂いています。たまにはラーメンを食べに行きたいですよ(笑)。とは言っても家族が用事でいない一人の時は、たんぱく制限したお弁当を取り寄せて食べてますよ。けっこう真面目です。」
恭子さん「病院帰りに時々、一緒にちゃんぽんを食べに行くんです。やっぱりたまには、食べたいですもんね。」
●これから挑戦したいことはなんですか?
清國さん「PDの手術を受ける直前まで趣味でハーモニカを9年ほどやっていました。この半年休んでいますが…これからはジャズのアドリブを習いたいですね。」
恭子さん「父と同じ年くらいの方とトリオで練習したり。ぼちぼち練習再開ですね。」
●お互いにメッセージをお願いします。
清國さんからご家族へ
「感謝しております。」
恭子さんから清國さんへ
「なるべく症状が進まないように上手に薬を使いながら、お父さん、ぜひ100歳を目指してください! 自宅でこんな風にゆるやかに治療できる時間がずっと続けばいいな、と思っています。
あと、あまり我慢強さを出さずに、不調の時は痛い、辛いとサインを出してくださいね。」
●最後に全国の患者さんへメッセージをお願いします。
清國さん「やはりご自分の体調をいつも気にかけてお大事になさってください。透析をするかもしれない時は、できるだけ早く先生に相談された方が楽になります。何の治療が自分にいいのか、選択肢が増えると思います。」
取材は清國さんと恭子さん親子のテンポ良いやり取りで終始笑いに包まれた楽しいひとときとなりました。PDが特別な治療だと深刻になりすぎず、家族みなで明るく笑い飛ばしながら見守る姿に私たちも励まされる思いです。
清國さん、ぜひコンサートに出演してください。その時はまた、取材に行きますから!
長崎大学病院 腎臓内科講師
浦松 正 先生
現在PD患者さんは60~70代を中心に約30名ほどいらっしゃいますが、清國さんはその中でも特に真面目で優秀な患者さんですね。手技の問題もなく、ご家族も熱心です。
出口部に何か変わったことがあったらiPadで撮影しておいて「先生に写真で見せた方が早いかな」と私に直接フィードバックしてくれます。不安なこと、わからないことを写真に撮って見せてくださるのはとても状況を把握しやすい。あのお年でiPad を使いこなされて、主治医はびっくりしています(笑)。
そのくらい新しいものにチャレンジしようという精神があるから、PD 等もどんどん自分でやってみようととても前向きでいらっしゃいます。お手本になりますね。
清國さんがお元気で長くPD を続けるためにも腹膜炎を起こさないように清潔操作、出口部ケアを徹底して、排液の状態にも気を付けて欲しいですね。また、普段の食事・血圧・体調管理など当たり前のことを毎日コツコツ続けてもらうことが、残っている腎臓の機能を長持ちさせ、長くPD を続けることにつながります。特にご高齢なので肺炎などの他の病気にも注意して、体の変化があったらすぐに相談して欲しいですね。体からのサインを見逃さないことが重要です。
どこかで機会があったら病院内でハーモニカを演奏していただきたいです。気持ちの健康のためにもハーモニカはぜひ続けてください。