患者さんレポート78号-2

患者さんレポート

中澤楓さん(13歳)
愛知県長久手市在住・PD歴半年 [2016.11現在]

負けるな、楓くん。腎不全と向き合う中学二年生

「誰かの家に泊まってみたい。」

「負けるな楓」
これは、楓くんが引越しをする前に富山の友達が書いてくれた寄せ書きの中にあったひとこと。取材の最後に宝物を見せてとお願いし、大切な色紙を見せてくれたのです。11月には14歳。絶賛思春期真っ只中(こんなこと書いてごめん、楓くん)中学2年生の最高の笑顔を引き出したのは、やっぱり最高の友達でした。
PD開始から約半年。治療のために中一の終わりに富山から愛知に引っ越してきました。将来は腎移植も視野に入れつつ治療に取り組む楓くんのお宅を訪ねました。

●PDまでの経緯を教えてください。

楓くん「小学校3年くらいから病院に通い、徐々に腎臓病から腎不全になりました。小学生後半には一度PDをやっていたけど治って、その後は学校にも通えていました。」

お母さん「今回のPDは2回目です。定期的に病院に通って血液検査などはやっていました。数値が悪くなっていたのでそろそろだねとなり、2016年の2月15日にオペをして就寝時に行うAPDとなりました。」

●学校生活を教えてください。

楓くん「風邪とかひかない限り普通に通っています。病院に行く時は午前休みや午後休みを取るけど。部活は愛知に引越してきてからやっていないです。学校の授業は理科と社会が好き。先生がクラスのみんなに病気の事を伝えてくれて、みんな知っているから気を付けてくれる。ドッヂボールの時も本気では投げてくるけど、お腹には当てないようにしてくれます。」

●これからやってみたい事はありますか?

楓くん「運動したいです。バスケットボールがしたい。富山にいた時は、昼休みにみんなで体育館に集まってやっていたから。いつかSASUKE(一般の人が身体能力と精神力を駆使して難しいアスレチックをクリアしていくテレビ番組)をやってみたいです。」

●毎日のAPDの様子を教えてください。

楓くん「透析の準備はお母さんがやってくれていますが、消毒とか自分でやっている事も多いです。APDは夜21時にセットして、朝6時までやっています。今は毎回3ℓの透析液を5袋使っています。だいぶ慣れたけど…夜にアラームで起こされるのが辛いかな。チューブが閉塞したりするとアラームが鳴るんです。」

お母さん「ねえ、鳴ってるよって、お互いつついて(笑)。」

楓くん「今から寝ようって時にアラームが鳴ったら、寝てなくても寝たふりする事がある(笑)。」

お母さん「つい準備を手伝ってしまうんですよね。アラームも熟睡中はかわいそうだなと思って。甘やかしすぎだよって言われますが。」高校生くらいからは完全に自分でできたらいいですね。

楓くん「うん。アラームで起きられれば、あとは全部自分でできる。準備もね。でもさ、ちょっと透析液をひと袋持ってみて。けっこう重いから!」(一同笑い)

●PDをやる上で気を付けている事は何ですか?

楓くん「操作に気を付けています。あと塩分と水分を摂りすぎないようにしています。」

お母さん「水分はPDで除水もできているし、尿も出ているので大丈夫です。塩分は少し摂りすぎかなと思うことも多いです。食べ盛りですからね。何でも減塩のものを使っています。お味噌汁なら具材をたっぷり入れて、汁を少なめにしたり。たまにファーストフードが食べたいというリクエストがあるんですけど、時々ならOKということにしています。」

●同じ病気を持つ友達はいますか?

お母さん「前の病院で仲良くなった友達と毎日スマホアプリで連絡を取っていて、2回くらい映画を見に行ったよね?」

楓くん「病気の子が3人と、そうじゃない子が1人。病気関係の話はしないな。ゲームの話とか、いろいろ。その中に、僕が入院していた時に腎移植をした子がいます。その子を見て、すごく元気そうだと思いました。僕も腎移植するって決めています。いつ(ドナーが見つかって)電話がかかってくるかわからない、今かもしれない。」

●透析を離脱できたら何がしたいですか?

楓くん「何の心配もなく、誰かの家に泊まってみたい。学校の旅行でも寝る時は別の部屋だから、寝る前にみんなで楽しい話ができない。自分でAPDの設定でもなんでも全部できるよ。でもね、プライミングしている時間とかすっげーもったいない。家ではご飯を食べたりテレビを見ていればいいけど、友達と一緒の時はみんなと買い物とかに行きたいわけさ。」
楓くん、ここで本音がたくさん出てきました。中学生が普段当たり前にやっていることを、楓くんもやりたいに決まっています。

●最後に、PDをしている同世代にメッセージを。

楓くん「本当に会って話をするなら、今はつらいけど、あとで絶対いいことあるよって言いたい。」

●いつも支えてくれるお母さんへどうぞ。

楓くん「普通で言うなら、プライミングを頑張れ!(一同笑)。ガチで言うなら、これからも大変だけど一緒に頑張ろう…って。」

●主治医の永井先生が「将来どう楓くんが自立した大人になるかが大事だ」とおっしゃっていました。先生にアンサーを。

楓くん「うーん。これを言うの、めちゃ恥ずかしいな。絶対笑わないで。…これからも自分も頑張るから、先生も僕を見捨てないで、って。」

始めは緊張していたけれど、友達の事や本音が飛び出してくると饒舌で表情も生き生き、俄然元気な中学二年生。冒頭の寄せ書きと、大切な友達の写真を見せてくれ、「どうだ!」と今日一番の笑顔も飛び出しました。楓くんを支える人、待っている人、みんながこれからの楓くんを見守っています。まだまだ慣れない今の環境も、そのガッツがあればなんとかなる。
数年後、また会いましょう!

担当医者のお話

愛知医科大学病院 講師
永井 琢人 先生

こどもの腎不全は一年に100人くらいしか発生しません。小児の領域は大人の治療と全く違うので小児専門の病院に数百キロ離れたところでも通う時があります。楓くんは2016年の2月に富山から愛知へ引越し、この病院にきました。楓くんはPDについてはほとんど理解していて自分で全部できますが、年齢的にも親に頼っている部分はまだ多いです。

一般的に、思春期小児の特徴は話が入りずらい事や話してくれない事があります。しかし、なるべく本人から情報を得るようにしています。どこかが痛むのも、薬を飲むのも本人ですから。自己管理をしていかないと、自立するのに重要な『自分でしなければいけないという必要性』がわからないまま大人になってしまいます。

18歳になっても、母親と一緒じゃないと病院に来られない、先生に何も言えないというケースも。大人はこどもが病気という理由で物事を決定してはいけません。“いいものはいい”、“悪いものはだめ”、“良ければ褒める”は病気の子とそうではない子に違いはありません。病院で過ごす時間はその子の人生の10%もありません。それは、彼の人生のほんの一部です。親も子も、どうしてもそこに囚われてしまう。自分の好きな事、楽しい事など、新しい世界を見つけてそちらを優先してどんどん進んでいって欲しいです。楓くんは、彼のなりたい人物像を作り、それに向かって踏み出せたらいいですね。私はそれを手伝っていければなと思います。

最後に大人の透析患者さんに向けてです。もっと夢や希望を持って前を向いていてください。腎不全でも何かができるんだということを、同じ病気のこども達に見せてあげて欲しいからです。こども達は、透析をしている大人達をいつも見ています。

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